「厳しくしたら嫌われちゃう」
「犬には何も強要したくないから」
「可愛ければそれでいい」
こんな理由で、リーダーの座を自分から降りてしまう飼い主さんがいますが、それは筋違い。犬にとっては、およそはた迷惑な行為。
犬は、本当は安心して身を任せることができるリーダーを求めています。
犬は群れで生活する動物であり、バランスよい群れを作り上げるための、服従本能と、権勢本能という2つの本能を持ち合わせています。
服従本能とは、リーダーが守る犬社会のルールに従い、その中で自分の居場所を確認し、安心して生活するという本能。
そしてもう1つは、群れの中で1番強い個体が、リーダーになろうとする、権勢本能です。リーダーが居ない群れはありません。自分よりも強い犬がいない場合、犬は「自分がリーダーにならなくては」と感じます。
犬社会では、ボス犬が全ての権限を持ちます。下に控える犬たちは、尊敬するボスのルールを忠実に守ります。ボスは、群れの安全を常に確認し、群れを率いる代わりに、自分が好きな場所を占領し、好きな食べ物は譲らず、いつでも群れの先頭を歩きます。群れのルールを守らない犬には、必ずボス犬からのけん制があります。
「ウチでは、人間が下でいい。ポチをボスにしてあげるわ」
なんて考える方もいらっしゃるかもしれませんが、必ずしも、それは犬にとって幸せなことではないのです。
生まれながらにして、真のリーダーとしての素質を備え、リーダー以外の地位は考えられない犬というのは、そうそういるものではありません。トレーナーの仕事をしていても、10年に1匹出会うか否かぐらいです。リーダー犬は、他に自分より強い犬がいないため、仕方なくリーダーになっているが殆どでなのです。
飼い主が信頼できるリーダーになるということは、犬が安心して身を任せ平和な暮らしができるということ。犬にとって、とても幸せなことです。
もちろん、犬がボスになってしまっている家庭では、犬が好き勝手をして言うことを聞かない、自分の気に入らない時の飼い主への攻撃的な行動を取るなどの問題行動へ発展してしまいます。犬は自分がボスだと思っているのですから、当然のことですね。
人間は、人間特有の「愛情」からボスとしての権限を自然と犬に与えてしまいがちです。そして、犬に「信頼」されていても、「尊敬」されなくなるのです。
犬のリーダーになると言うことは、犬を愛さないことではありません。厳しく当たることでもありません。犬という動物の心理を理解し、犬に分かりやすい接し方で、頼りがいのあるリーダーとして正しい方向へ導いてやることです。
犬の問題行動に頭を抱える飼い主の方にお聞きします。
「あなた自身が変わり、犬が信頼できるリーダーになることを約束できますか?」
飼い主さんに、「自分が変わる」という決意が無ければ、いくら犬を訓練しても、状況を改善することは難しいでしょう。
こんな質問をよく受けます。「こうしたらいいよ」と簡単に言えれば良いのですが、残念ながらそうは行きません。それぞれのケースで、犬の服従本能・権勢本能の強弱、それまでの過程・経験・問題行動の重度・飼い主さんの状態などが違いますので、同じことをすれば全てが解決するわけではないのです。
本などでは、アルファ・ロール(犬を仰向けに寝かせ、犬が大人しくなるまで抑える行為)を薦めているケースが多いですが、これもケース・バイ・ケースで、お薦めしないこともあります。犬の性質・飼い主さんの性質により、逆に悪化させてしまうケースも多々ありますし、飼い主さんが噛まれてしまったり、諦めない犬をいつまでも押さえつけ、殺してしまった例もあります。
ワンコ・ワークスでは、状態を色々な側面から分析した上で、その犬、その飼い主さんに合わせたプログラムを組んでゆきます。
犬は生きています。残念ながら、壊れてしまった機械を直すようなマニュアルはないのです。
そうは言っても、何かできることは無いのか?と思っている飼い主さんのために、以下の3つの基本を挙げておきます。まだ問題行動に発展していないけれど、是非リーダーとなって犬を幸せにしてあげたい!と思われている飼い主さんは、以下のことを念頭に置きながら犬との生活をエンジョイされると良いと思います。
明確なルールを設定し、犬にそれを守らせる
例えば、入ってはいけない部屋を1つ作る、ソファには上げないなど家庭内での分かりやすいルールを作り、それに従わせてください。
注意していただきたいのは、例外は無いということ。従わせると言うことは、100%守らせるということであり、「そんな気分じゃないらしい」「いくら言っても聞かない」などと、言い逃れをさせてはいけません。
どんな時でも感情的にならず、どっしり構えた飼い主でいる
怒鳴ったり、悲鳴を上げたり、追いかけたりする飼い主を、犬は精神的に不安定な人物として見ます。犬は不安定なリーダーにはついてゆきません。叱るときも、声を荒げることをせず、気迫を込めて「ダメ」と叱るようにしてください。
人生にタダのものは何も無いことを教える
「可愛いからおやつあげちゃう」「せがまれたから撫でる」など、犬が努力をしなくても、欲しい物が手に入る環境をなくしてください。
例えば、撫でることをせがまれたら、先ずお座りをさせ、従ったら撫でる。おやつを貰うときには、必ず1分待たせるなど、欲しい物は自分で「稼ぐ」ようにしてください。